ポイント
グローバル・ストックテイク(Global Stoctake:GST)とは、パリ協定の長期目標達成に必要な各国の行動とその進捗を評価する仕組みです。
グローバル・ストックテイク(GST)とは
グローバルストックテイク(GST)とは、前述のとおりパリ協定で定められた長期目標の達成に必要な各国の行動とその進捗を評価するための仕組みです。少々長くなりますが、2023年11月のCOP28ではグローバル・ストックテイク(GST)が初めて実施される予定ですので、事前にチェックしておきましょう。
まずパリ協定とは、2015年にCOP21で採択された気候変動対策に関する国際的な約束事です。世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑えるなどの目標が掲げられています。さらに、各国の温室効果ガス排出量を削減するための「国が決定する貢献」(Nationally Determined Contribution:NDC)とよばれる削減目標の策定と提出と5年ごとの更新が義務付けられました。
このNDCの進捗状況のレビューを実施するのがグローバル・ストックテイク(GST)です。GSTがNDCの進捗を評価し、政府はその評価を次回NDC策定の参考とします。
環境省の資料では「パリ協定の目的と長期目標の達成に向けた全体としての進捗状況の定期的な評価(5年に1回)」としており、NDCs(目標設定)、隔年透明性報告書(実施の報告)に対してGSTは進捗レビューの役割を担っています。(下図参照)

パリ協定における各国の目標など、詳しくはこちらの記事もチェック:パリ協定とは
グローバル・ストックテイク(GST)では何をするの?
グローバル・ストックテイク(GST)は以下の3つのフェーズから構成されています。
情報収集・準備
技術的評価
成果物の検討
情報収集のフェーズでは、グローバル・ストックテイク(GST)の評価に必要な情報をUNFCCC事務局が収集して統合報告書を公開したり、各国政府や非政府主体が意見書を提出。そのほか、第2フェーズ(技術的評価)へ向けた準備も実施されます。
第2フェーズの技術的評価では、イベントの開催を通じて専門家と各国の間で収集した情報を科学的・技術的知見に基づき検討します。
そして最後が第3フェーズ、成果物の検討です。第2フェーズの結果に基づきより政治的な議論が行われ、論の結果は、①さらなる行動や支援の機会と課題、実施可能な対策と優良事例、国際協力に関する優良事例の特定、②更なる行動の強化と支援を促すための政治的メッセージの作成、にまとめられます。
当然これらの作業がCOP期間中に終わるはずもなく、すでに第1フェーズ、第2フェーズの作業は進められています。そして最終的に2023年のCOP28では初めてグローバル・ストックテイク(GST)の成果物がまとめられる見込みです。
グローバル・ストックテイク(GST)のタイムライン
そもそもグローバル・ストックテイク(GST)は2015年に合意されたパリ協定の14条に記載さており、そこでは5年ごとに進捗が検討され、第1回は2023年に実施されるとあります。また、グローバル・ストックテイク(GST)は、前述の3つのフェーズが完了するのに約2年~2年半の期間を要します。
第1回のグローバル・ストックテイク(GST)は2023年現在、以下のスケジュールで進められています。

グローバル・ストックテイク(GST)のすべてのプロセスにはおよそ2年~2年半がかかるとされています。そのため第1回グローバル・ストックテイク(GST1)は2021年の11月(COP26)から開始されており、そこから情報収集・準備、技術的評価のプロセスを経て2023年の11月末~12月に開催予定のCOP28に向けて準備が進められているところです。
日本企業への影響は?
グローバル・ストックテイク(GST)が実施されることで、日本企業にはどのような影響があるのでしょうか?
結論から言うと、カーボンニュートラルへ向けて現在(2023年7月)以上の努力が必要になる可能性があります。なぜかというと、現在提出されているNDCを基準とした温室効果ガスの削減量ですとパリ協定の長期目標の達成ができない可能性が高いためです。
国際的な気候変動議論の中心となるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると2021年10月までに発表された各国のNDCsでは温暖化が21世紀の間に1.5℃を超える可能性が高くさらに世界気象機関(WMO)の報告では、なんと66%の確率で2027年までに1.5℃上昇を迎えてしまうといわれています。
日本は、2030年度において、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指すこと、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることを表明しており、これを踏まえてNDCが策定されています。しかし2023年のグローバル・ストックテイク(GST)でさらなる行動が必要だと判断されれば、2025年のNDCも引き上げられ、日本企業も現在掲げている目標の見直しを迫られる可能性があります。