【国際】グリーンウォッシュをめぐる訴訟が増加傾向に

世界の「気候変動訴訟」がここ数年爆発的に増加していると、最近の調査で判明しました。

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【国際】グリーンウォッシュをめぐる訴訟が増加傾向に

世界で「グリーンウォッシュ」をめぐる訴訟がここ数年爆発的に増加していると、最近の調査で判明しました。

気候変動をめぐる訴訟とは?

世界的には2015年ごろから気候変動訴訟が散見されるようになりました。気候変動訴訟とは、企業や国家が行う気候変動対策が不十分であると申し立てる裁判で多くの場合原告はNGOや地域住民です。

たとえば2021年5月26日に判決が下された通称「シェル事件」は、世界的エネルギー企業のシェル・グループの本社であるるロイヤル・ダッチ・シェル社(RDS)に対して、複数の環境NGOなどがCO2排出量削減などを求めた民事訴訟です。裁判の末、ハーグ地裁はNGOの訴えを認め、RDSに対して同社グループのバリューチェーンで排出されるCO2排出量を、30年末までに19年比で45%削減することを命じる判決を下しました。

この判決は、裁判所が民間企業に対し温暖化対策の強化を命じた初めてのケースだといわれています。

一方で、2022年ごろから新しいパターンの環境関連訴訟が登場しました。それがグリーンウォッシュをめぐる訴訟です。グリーンウォッシュとは、気候変動に関してポジティブ活動を行っているように見せる企業活動を批判する際に頻繁に使われる言葉で「見せかけだけの、上辺だけの」気候変動対策といった意味を持ちます。

グリーンウォッシュをめぐる訴訟では、消費者個人が企業を訴えるケースも多く2022年にはカリフォルニアのChelsea Commodore氏がH&Mの製品はサステナブルだと事実以上に主張しているとH&Mを訴えました。このほか、2023年にはデルタ航空、KLM航空がそれぞれグリーンウォッシュだとして消費者からの申し立てを受けています。

増加するグリーンウォッシュ関連の訴訟

イギリスのロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)が6月29日に発表した最新の調査によると、2020年は世界で10件のみであった「グリーン・ウォッシング(climate-washing)」関連の訴訟が、2022年には26件に増加していたといいます。

近年のグリーンウォッシュをめぐる訴訟の背景には、いくつかの要因が考えられるといいます。たとえば、消費者の気候変動に対する意識の高まりから社会の監視の目が厳しくなっていること、規制当局がグリーンウォッシュに関心を寄せていること、ほかの気候変動訴訟と比較して訴訟を起こすことが容易であることなどがあげられます。

気候変動訴訟は気候変動対策に有利な結果に

報告書によると、グリーンウォッシュに限らず「気候変動訴訟の50%以上は気候変動対策に有利と理解できる司法結果」をもたらしています。

ある調査では8割強の消費者が「生物多様性を損なう商品は避ける」と回答しており、7割が「気候変動に寄与しない製品を選びたい」と考えていることが分かっています。消費者の関心が気候変動やSDGsに向かう中で、企業が「グリーン」「サステナブル」といった言葉をマーケティングに使用するようになるのは、一種当然の流れともいます。例えば「サステナブル」という単語には数値化できるような基準はなく、簡単に使えてしまうのも事実です。

意図的でなくても、グリーンウォッシュと判断されると訴訟リスクやブランド毀損リスクが高まります。一方で環境対応を一切しなければそれはそれで別のリスクが生じそうで、ならどうすればよいのかというのが問題です。

企業がグリーンウォッシュを避けるためにできることを考えると、まず先行研究が大切です。気候変動分野では海外、特にEUが先進的ですから、EUにおける規制や訴訟事例などを知っておくことで「消費者がグリーンウォッシュと判断するライン」が見えてくるはずです。

「グリーンウォッシュが増加していて問題である」といいましたが、企業と消費者の注目が気候変動に集まっているということの裏返しとも言えます。今後はこの流れが、より本質的な変化を伴ったものに変わっていくことを期待します。

《ニシダ》